「Zipper」- 妄想会議

Zipper

【6&3フェア。巻島と坂道。腐向けムード。テーマ:「雨宿り」】


練習中、急な土砂降りに逢ったふたりは途中にあったドラッグストアの軒下を借りて雨宿りをしていた。

「あーあ、ずぶ濡れになっちゃった……」
固めで短い坂道の黒髪が額に張り付いて、筆先のように水滴がぽとぽと滴り落ちている。
「こういう時もあるさァ、仕方ねーっショ」
同じようにずぶ濡れの巻島は坂道の髪をゴシゴシ撫でて飛沫を払ってやった。

濡れていることが気持ち悪く感じるのか、坂道はおもむろに上半身のサイクルジャージを脱ぎだした。
ジャージの布を雑巾のように持ってぎゅーっと絞る。
雨と汗で出来た雫がぽたぽたと足元に垂れ、コンクリートに水玉の染みを作った。

蛍光灯の下、薄暗い部室の中で男子大勢で着替えるのとは違い、雨天とはいえ日光の届く明るい場所で、身体付きにまだ幼さを残す坂道が露わにした陽に焼けていない薄い上半身は、巻島の方に妙な質感を持って迫ってくる。
別に何も悪いことはしていないのだが、見ているだけで犯罪っぽいというか……。
首元にうっすら生えるうぶ毛や、肩の部分のそばかすっぽいポツポツ、白い肩甲骨の辺りがわずかに紅くなっているところなどつい目が離せない。

「こうして一度絞ったほうが早く乾いていいかなと思ったんですけど、あんまり変わらないみたいですね」
とりあえず水分を絞り取ると、坂道は若干よれたジャージを身につけた。しかしジッパーの前は全開にしたままだ。
ジャージと肌の隙間から胸が凸凹している辺りの影がちらちら見える。

「ジッパー、上げるっショ……」
坂道からあさっての方向にそむけた顔を動かさないまま巻島はぼそりと呟いた。
「まだ濡れてるので、全部閉めたらぺたぺたして気持ち悪いです」
「前開けたままなのはみっともないからダメっショ」
苛立つように巻島が返すと、坂道は怒られた飼い犬のようにしゅんとした表情でジッパーをジジ、と上げた。

(本当は、みっともないのは坂道じゃなくて、オレの心のほうっショ……)

壁にもたれたまま巻島はずるずると固く冷たい床にしゃがみこんだ。
雨はまだ止みそうにない。

【END】

2012.05.09 七篠