ストレンジ マリッジ

・巻島の結婚式の日の小野田。という設定で。おねがいします



初夏の、ガーデンウエディングは周りの緑が目に眩しい。今日は雲ひとつない晴れた日で。こんな日で本当によかったとボクは思う。いままであった色々なことを思い出すとなんだか涙が出そうになる。だけど、今日は我慢しなくちゃ。笑顔、笑顔。ボクはにこっと口角を上げた。



結婚式会場の隅の新郎用控え室の扉がカチャ、と開き、小野田が顔を出した。
「『今日は、おめでとうございます。』なんちゃって……」
「おー、坂道ィ。何ショ、花?」
巻島の控え室に現れたスーツ姿の小野田の片手には、夏らしい黄色い花で出来た小さな花束がひとつ備えられていた。
「実家からこっち来る途中に寄った花屋さんで買ってきたんです。高校の時、ボクがあなたに贈った小さな花束を買ったのと同じお店なんですけど……」
お店の看板を見かけたらあの頃が懐かしくなって。きっと『高校生のボク』ならこんな日に花を持っていくだろうな。って思って車を駐めて買ってきてしまったんです。
「でも、なんかお花、結構たくさん届いてますね」
今日は友人と家族のみというこじんまりとした規模の式なのだが、それでも数個のアレンジメント花が届けられている控え室を小野田はざっと見回す。会場の装飾用の花と足したら華やか過ぎる数だ。
「うーん。こんな小さいの、持ってきても仕方なかったかなぁ……」
小野田は後悔した。
「いや、嬉しいよ。ありがとう。これもどこかに飾るっショ」
巻島は小野田から贈られた小さな花束を顔に近づけて緑の匂いを嗅いだ。

「……ところで、」
ここに来て巻島は急に話を切り出した。
「今日、人前でさァ……あれだ、誓いの時にオレは『チュッ』てしなきゃいけないんだよナ?」
「そうですね。やらなかったら皆うるさいでしょうし。特に田所さんとか、東堂さんとか、あの辺の人たちが」
晴れた旅立ちの日に、巻島は微妙に表情を曇らせていた。
「……。オレは恥ずかしいのはイヤなんだけど、今日は仕方ないよナ。あー、さすがに緊張するっショ」
「……がんばって下さいね?」
人生一度の大仕事の前の緊張をまぎらわそうと、スツールに座ったひざの上を長い指でモールス信号のようにトントン無意識に叩く仕草をする巻島のようすを見て、微笑ましく感じた小野田は白鳥のように可愛らしく小首を傾げた。とはいえ、高校生の頃よりも身長が伸びて大人になった小野田なので可愛いのは仕草だけだが。

突然、巻島は小野田のスーツの裾を子どものようにぎゅっと掴んだ。
「あのなァ。坂道。ちょ、ちょっとだけ、チュウの、れ、『練習』させて欲しいんショ……」
「……えっ。何言ってるんですか?ダメ、ダメ」
しかし、小野田の身体は巻島によって控え室の真白い壁に無理矢理引き止められた。そんな巻島の無理強いを手でかわして、
「そういうのは、この後の本番に備えて大切に取っておかなきゃダメですよ!新郎として!」
と小野田は諭した。
「でも今ここで練習しておかないと、本番でもし何か失敗したら目も当てられないっショ」
こういうの、オレはやるからには完全にやりてェんだよ。なっ、なっ。頼むよ……。お前以外にこんな事頼める奴いねェんだヨ。必死な表情の巻島は坂道の両手を掴んで頭を下げた。
「仕方ない人ですね、まったく……」

二人の影が鏡の前でそっと重なった。……このキスの事は、ふたりだけしか知らない。

「ありがとう、坂道。お前もそろそろ行けっショ。そっちも色々用意あンだろ?」
「はいはい。また、後で。」

今日、すごく楽しみです。小野田は手を振って部屋を出ていった。



――その晩は、月が綺麗な夜だった。

「はー……。お式に、披露宴に、二次会、と。さすがに、疲れましたね……」
坂道は今日自分等がこなしたイベントを指折り数えた。他にも家族同士の挨拶とか、お見送りとか。いろいろあったなぁ。
「……オレは頑張ったっショ。頑張った……ぜ……。あぁ……」
自分に言い聞かせるように、いまいち焦点の合わない瞳で巻島はボソリと呟く。
結婚式の日の夜、会場の近くに取ったホテルのスイートルームの大きなソファに身体を預けた二人は揃ってぐったりしていた。普段ロードで鍛えている体も、今日の特別な一日ではすっかり疲れ果ててしまった。
「でも、裕介さんが披露宴のサプライズお色直しで着た『アクロスE』シリェルさんのゴージャスなウエディングドレス、すっごく、すっごぉーく!似合ってましたよ!みんなワァワァ言ってたし、サプライズ大成功でしたよねー。ボクも最高でした。ウフv」
アレを見れただけでボクもう死んでもいいですッ。あとで写真拡大してパネルにしてもらおうかな。えへ。坂道は巻島の華麗で美しかった女装姿を思い出してニヤニヤしている。今日の式では大人らしくシャキッとしていた口元がすっかり緩んでいた。
「せっかくケッコンしたのに、オレ置いて死んだらダメっショ……坂道?」
恨みがましい目をした巻島は坂道の肩に慣れた手つきで腕を寄せた。
「それじゃ、裕介さん。また着てくれますか?アレ」
「……今日は特別な日だしお前の頼みを聞いてやったけど、オレはもう絶対二度と女装なんてやらねーショ。裾は重くて何度も踏みそうになるし、何か足の下がスースーするし、化粧と髪セットするの大変だし……ブツブツ」
女って必死なんだな。オレには分からねェ。やれやれ。と言った風に巻島は手を上げた。性別の単語を聞いて反応したのか、坂道がしょぼん。と肩を落とす。
「ボク、女じゃない身で、あなたの人生を独り占めしてしまうんですよね。ごめんなさい」
「……いや、そういうつもりで言ったんじゃねェから。気を悪くしたら謝るショ」
巻島はあわてて取り繕った。
「それに、オレ等がお互いを選んだのは男とか、女とか、関係ねーだろ、今更……」
「えへ、そうですね。これからもよろしくお願いします、裕介さん」
「オレも……頼むぜ、坂道」
ふたりは照れた顔で身を寄せ合った。
「あっ、髪の毛に紙吹雪、着いてますよ」
「えっ、どこに。取ってくれヨ」
「なんちゃって……。」
誤魔化しながら、すっかり大人になった坂道は巻島の方に顔を寄せ、結婚式の本番より長く深く熱い口付けをした。

【END】
2012/08/08 七篠(24巻おめでとうございます記念日)




<あとがき>

今回は、叙述トリックというかw
一見失恋?みたく見せて本当はラブラブなのがやりたかった。のでした!

同性婚ネタ、いいよねー。最初はタキシードで、お色直しで巻ちゃんはドレス希望です!w(腐ってやがる)(早すぎたんだ)(何