ルート

・原作(インターハイ)より1年+数ヶ月後 の設定です。
・【注意】一部のキャラクターに対して暴力的な描写があります(ただし作中では直接描写はありません)。苦手な方は回避推奨。



[route]道路。道順。経路。マルチシナリオのゲームの分岐シナリオ。
[root] 植物の根。方程式の解。

――知らないうちに種は蒔かれていた。気が付いたら芽が生えて、静かに根が伸びていくのだ。……誰にも見えない、秘かな場所へ。

秋も深まり空気の冷たさが冬の気配をそっと運んできた頃、ボク、小野田坂道はヒルクライムレースで久しぶりに大学生の巻島さんに会った。今日の巻島さんは右の口端に絆創膏を貼っている。 両手を上に伸ばして運動前のストレッチをしながら「レースで走るの久々っショ」なんて嬉しそうにしてるけど、 絆創膏の隅からはみ出している擦り傷の跡が、モミジの落ち葉ほど赤くて。それが痛々しく見えてボクは気が気でなかった。 前回のレースでは「この前落車で突き指したんショ」という理由で直前になって棄権していた巻島さん。
「オレは今日は走れねェけど、坂道の登りが観たかったから」
って、わざわざ応援に来てくれたことは嬉しかったけど……ここ数カ月の間、会う度にいつも怪我してるのはどうしてなんだろう?
前々回にボクが会ったときの巻島さんは、左目の周りに内出血でできた見事な青タンをこしらえていた。顔をぶつけると漫画みたいになっちゃうって本当なんだ……って、感心している場合じゃないんだけど、そんな風になっている人をはじめて見たのでボクはとても驚いた。

2度あることは3度ある、なんて言うけれど、3度目まであれば、この多さはさすがに偶然ではないとニブいボクですら気づく。
「(気になるけど、聞けないよ……)」
証拠は無くてこれはただのボクの勘なんだけど、ここ数ヶ月間の巻島さんの怪我の理由は決して良い事ではないだろう。ロードレースは一見スマートにみえるけど実は激しい部分のあるスポーツだ。ぶつかったり、落車したり、他の選手のアクシデントに巻き込まれたりする。このボクの脚にだってうっすらとした物から明らかに目立つ痕までたくさんの擦り傷が残っている。けど、巻島さんは見た目は派手だけどバランスが絶妙な走り方をする人だから、いままでずっと大きな怪我とは縁が無かった。はずなんだ。
……きっとボクの知らない所で何かがあったんだろうな。と思う。巻島さんが先に高校を卒業してからボクたちは深くつっこんだ話をしたことがない。ボクは彼の怪我の理由が気になるけれど、あの痛々しい痕を何度も目にしてしまうと、それについて問うことは無理矢理かさぶたを剥がすみたいに傷をさらに痛めつける気がして。何でもない他の話題すら深くは聞き出せなかった。

本日の峠はあいにく曇り空で気温もかなり低かった。体をどこか動かしていないと芯まで冷えそうだ。路面が凍結する季節に入る直前、本日いっぱいで各地のレースの大半が終了する。不安な天候の中、かろうじて雨が降らなそうなことだけが不幸中の幸いだった。
「やぁメガネくん、調子はどうだね。今日はなんだか元気が無いように見えるぞ?」
準備を済ませてからスタート位置に向かうためバイクをのろのろと押していた時に、ボクの隣を通った東堂さんが声をかけてきた。 大学生になっても相変わらず白いカチューシャ姿が目立つ東堂さんだけど、額に輝くそれに負けないくらい、インカレ界、いや実業団を含めた全国でも有数のクライマーとして彼の存在は際立っている。「箱根の山神」という名誉ある渾名も未だ健在だ。
「試合前からガッカリするのは良くないぞ。落ち込むのはオレに負けてからにするんだな!」
挑発の言葉と共に、東堂さんはボクにお得意の指差しポーズを向けてニヤッと両方の口角を上げた。
「試合とは関係ないです。」
ボクはぷいっと横を向いて目線を逸らした。方向を変えた目線の先に、茶色の長い髪が見える。巻島さんの後ろ姿だ。今は玉虫色ではなく普通の茶色だけど、彼が高校卒業直前に一旦切った髪は随分伸びて、最初に出会った時と同じくらいの長さに戻っている。そんな巻島さんのすらりとした長い指が、何かを確認するように口元の白い絆創膏に触れている仕草が見えて、ボクはおもわず眉をひそめた。
「その悩みはもしかして、巻ちゃんの事かな?……図星だな。顔が変わった」
そう言った東堂さんの顔からも笑みが消え、この先はレースの後で聞こうか。という言葉を残して彼はスタート位置に向かった。 後を追うようにボクも小走りで向かう。
「坂道ィ、遅いっショ」
こっちだぜ。巻島さんは自分の位置の横をボクの分だけ空けておいてくれて先に待っていた。
「さっきは東堂と何話してたんショ?」
と聞かれたので
「今日は天気が微妙で残念だな。とか、真波くんの話とか……」
などと適当にごまかしておいた。何故だか、「巻島さんの話ですよ。」と本当のことを言うのが躊躇われた。



……今日のレースでのボクの結果は褒められた物では無かった。 体調は万全だったけど、傾斜が変わる場面でペース配分に一瞬迷ったところで見事に抑えられてしまった。 あの場所でギアを変えるのが遅かったんだ。 順位的には悪くないけど、今日の参加者層の印象ならもっと上が狙えたはず。試合前、不安な方向に傾いたメンタルが明らかに影を落としていた。
「坂道、なんか考え事してるっショ。今日おかしかったゼ」
「そんなこと……ないです」
「オレちょうど坂道の後ろから見てたけど、あのポイントのコーナーでギアを早めに変えたほうが良かったっショ。あそこは脚を貯める場所じゃなかったナ」
久しぶりだし、いろいろ話したいこともあるケド、オレ今日はちょっと用事があるから、また今度……。 巻島さんはそれだけボクに言い残すと、高価そうな真紅のスポーツカーに乗ってあっけないほどさっさと先に帰ってしまった。
「……なんだ、巻ちゃんはもう帰っちゃったのか?今のクルマ、巻ちゃんのアルファロメオだろ」
ボクの後ろから、肩を竦めた東堂さんが残念そうに声をかけてきた。
「最近の巻ちゃんの冷たさと言ったら氷の美女もかくや、なのだよ」
「東堂さんは巻島さんとよく会ってるんですよね……」
東堂さんは巻島さんと同じく、都内の私大に通っている。学校は別だけど両方の大学の場所が近いこともあってマイナースポーツ故部員の少ない自転車競技部同士でよく合同練習をしているそうだ。
「練習の時にはな。でもそっけないよ、最近はまぁ大体あんな感じだな」
オレは巻ちゃんのこと、こんなにも愛しているのだが。ラブだよ、ラブ。胸の前に指でハートマークを作っておどける東堂さんのポーズがおかしくて、ボクたちは2人でくすくす笑いあった。
「それより、巻島さんの話って何ですか」
さっきまで過剰なほどおどけていた東堂さんの笑顔が彼の静かなクライムのように音もなくスッ、と消える。山の上特有の強い風で、墨で染めたような漆黒の髪が揺れた。
「ふむ……やはり止めておくかね、メガネくん?」
「ちょ、言いかけて止めるのは反則ですよ東堂さん」

レースを終えた参加者たちがダラダラと群れている本部から、少し離れた駐車場。この辺りはひと気が少ない。 その中で東堂さんは少し黙ってから静かな口調でゆっくり話しだした。
「――正直、良くない話だぞ。巻ちゃんがいま付き合ってる相手が、どうも暴力を振るっているようでな……。DV、 いわゆる『ドメスティック・バイオレンス』というヤツだ。最近の怪我はそれが原因みたいだ」
と、東堂さんは知っていることをボクに全部話してくれた。
「えっ、女の人が殴ったりするんですか?」
「女でも人によっては殴るとは聞くが。……巻ちゃんの相手は、男だよ」
お、男……!?ええっ……。その言葉を聞いて明らかに動揺したボクを見て東堂さんは気がついた。
「なんだ、メガネくん。巻ちゃんに恋人がいる話は聞いてなかったのか……てっきり本人から聞かされていると思ってたのだが」
「……全然、知りませんでした」
ボクと巻島さん、ふたりとも高校生だった時はいつも部活で一緒だったけど、高校生と大学生で立場が離れた今、ボクは巻島さんの普段の生活についてはあまり詳しくない。たまに会う時に近況とかをお互いぽつぽつ話すくらいだ。ボクらは決してお喋りな方ではないからそれが普通で。会うたびに昔の親密な空気は取り戻している(とボクは思っている)けど、恋愛の話をしたことはなかった。
東堂さんは自分の顎に手を当て、ああ、しまったな。という顔をした。黒い瞳には後悔という字が浮かんでいた。
「学科が同じ先輩で、向こうは院生だったかな。巻ちゃんはそいつと入学後から付き合ってるんだが、最近上手く行ってないようで喧嘩する度に殴ったり蹴ったりしてくるらしい。……特に最近は傷付いてない時が無いよ、いつ会っても暗い顔をしていて。オレや荒北、他の友達も巻ちゃんに『そんな奴とはさっさと別れたらどうだ』と言っているのだが全然聞きゃあしないんだ」
「なんとかならないんですか」
「オレだって、なんとかなるんだったらとっくにどうにかしてる!」
東堂さんは周りに響くほど大きな声を張り上げた。その勢いで、近くの細い木の枝に止まっていた小さな鳥がバサバサ飛び立った。突然の叫びにボクも背筋をビクッとさせて思わず後ずさった。
「……すまん、メガネくん。つい乱してしまった。だが、恋というのは厄介な病気みたいなもので、周りが何を言ってもどうにもならん時があるのだよ。周りにも、本人たちにも」
東堂さんはボクにそう説明した。
「うまくは言えないが」
「そっ、そんなの、ボクにはちょっと……分かりません!」
一度には理解できない話を聞いて、心の処理速度が追いつかない。古くなって油が切れ錆び付いた機械のように、底冷えする高地の寒さすら感じないままボクはしばらくその場に立ち尽くした。



「クハ。このファミレス、高校の時によく来てたナァ……。懐かしいっショ」
あのレースから数日後。果たして巻島さんはボクとの約束の時間通りにこの場所にやってきた。ここは千葉県の大きな国道沿い、総北高校の一番近くにあるファミリーレストラン。この手のチェーン店の中では安いので、高校生の客も多く、ボクたち自転車競技部の面々もよく利用している。
巻島さんがちょうど実家に帰ってきているということを聞き、ボクは馴染みのこのお店を二人の待ち合わせ場所に指定した。
「この前のレースの時は時間なくて悪かったナ。あまり話もできなかったし……で、今日の用事は何ショ」
「随分長い間お借りしていたDVDをそろそろ返したいって思いまして」
ボクはテーブルの上にロードレースのドキュメンタリーDVDが3枚入ったビニール袋をそっと置いた。巻島さんは袋を開け、DVDの本数とタイトルを確かめる。
「あ、このシリーズか……。急ぎじゃねェし、別にいつでも良かったんだケドな。坂道は義理堅いネェ」
「……ほんとは、これだけじゃないんですけどね。今日の、本当の用事は別にあって、」
ボクはいちど大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。心拍数がいつもより早く駈けている。ヒルクライムで必死に登るよりもこれからすることはボクには厳しい行為だ。――けど、ここまで来てもう止められない。思いきって話すってもう決めたんだ。
「あの……。なんだか最近の巻島さん、おかしいですよ」
ついにボクは決心して本題を切り出した。
「会うたびに怪我してるのって、変です。一体何が起こってるんですか?」
普段は弱気なはずのボクが、気がついたら詰問するようにきつく言葉を発していた。
「坂道、いきなり何を言うかと思ったら……。ロードでちょっと怪我しただけっショ。ちょっとなんだ」
巻島さんは上半身をこころもち後ろに反らした。
「落車したって、そこまでの傷、できませんよね」
まっすぐ射抜くボクの強い視線に対して、争いに負けた時の犬のように目線を背けた巻島さんは黙って観念したようにふう…とひとつ息を付いた。
「さすがにもう騙せねェな……。ま、大人の事情があんだよ。ちょっとケンカしただけなんショ」
「……男の人の恋人と、ですか」
図星の言葉を聞かされて。ボクと向かい合った席の彼の、色白の顔が醒めていく。
「坂道はそれ、誰かから聞いたのか?」
でも声は穏やかで。
「はい。ごめんなさい……。あのっ、誰と付き合うのも個人の自由だし、世の中には同性同士で付き合ってる人もいるって事も保健の授業で習ったから知ってます。でも……どうして暴力を振るう人と付き合うんですか?そんなの、良くないですよ!」
「……お前には、分かんねえっショ!」
巻島さんが腹の底から出した有無を言わせぬ強い怒声でボクの身体はビクつき、そのまま凍り固まった。ひどく狼狽えたボクの青ざめた顔に気づくと、巻島さんは
「あ、……悪ィ。こんな事言うつもり無かったん、ショ……。坂道は、こんなロクでもねェオレのことをわざわざ心配してくれてるんだもんなァ。ゴメンナ」
怒鳴ったことをフォローするようにボクの髪をぽんぽんと軽く叩き、軽く撫でた。ふたりとも高校生で、まだ汚れを知らなかったあの頃みたいに。でもボクたちはもう子どもじゃない。ボクはともかく、巻島さんの方は。
(ああ、ボクは、巻島さんをこんな形で追い詰めちゃった……)
ボクと彼は同じテーブルを囲んでいるのに、大きな川の対岸に居るような遠い距離を感じる。まだ子どもの、ちっぽけで視界の狭い心しか持ってない自分が本当に情けなくて、どうにもならなくて……。色々な感情がデタラメに混じって、もう全然うまく喋れない。メガネの向こうの視界がぼやける。
「うっ、ううっ」
両目からぼろぼろと涙がこぼれる。もう17歳なのに、男の子なのに、すごくみっともない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ボクは余計なお世話を……こんな……」
止めようとしても次から次へと勝手に涙が溢れ続ける。テーブルの下の握りこぶしにいくつか滴が落ちて跡を描いた。

「……落ち着いた?坂道」
「はっ、はい……申し訳ありませんでした」
巻島さんが追加で注文してくれた温かくて甘いココアを少しずつ飲んで、しばらくしてボクは落ち着いた。
目が充血して真っ赤になってるだろうけど、なんとか涙は止まった。鼻がぐずぐずして、腫れた目元がヒリヒリ痛い。
「心配させちゃってごめんな……。オレはさァ、どうなろうと大丈夫だから。坂道は、気ィ使わなくていいショ」
今日はオレが奢るゼ。と会計を済ませて店のドアを出た後、
「……オレも、お前みたいな優しい奴が好きだったら、良かったのにナ」
まったく、人生って奴は思う通りにゃ上手く行かねェもんだ。と、巻島さんはボクの背中をさりげなくポン、と軽く叩いてそう呟いた。
「今から東京戻るんショ。じゃァ、また。今日は会えてよかったヨ。坂道」
ありがとう。最後にそう言って、片手を上げた巻島さんはあの赤いスポーツカーで駐車場を出て帰っていった。
ぼーっとしながらボクは、紅いテールライトの灯が遠くに小さく消えてしまうまで無言で彼の後ろ姿をずっと見送りつづけた。



「坂道、もう食べないの?ご飯が冷めちゃうわよ」
「あ、うん。ごめん、母さん。ちょっと今日はあんまり食欲ないみたい……ごちそうさまでした」
ボクはお箸と茶碗をテーブルの上に置いて、食事机の席を立った。
家に帰ってからもボクは今日の出来事、具体的には巻島さんについて、ずっと、ずっと考えていた。それ以外の事は何もしたくなくて、明かりも付けずにさっさと自分の部屋の狭い布団の中に逃げ込んだ。何か見えない強い力で胸がぎゅっと掴まれたように苦しい。

オトナの恋愛をする巻島さんと、何もできないまだ子どもの自分。
『……オレも、お前みたいな優しい奴が好きだったら、良かったのにナ』
と言った巻島さんのなにげない、たわいもない呟きを胸の内で何度も何度もなんども甘い飴を舐める中毒者のように反芻する。その塊はいつまでも溶けて消えることはなかった。
――ボクはまだ子どもだから「オトナの恋愛」って判らない。けど、今のままで本当にいいのかなぁ。……ねぇ、巻島さん、それってどうなんですか?また胸に痛みが込み上げてきて、布団の中で声を殺してボクは涙を流し続けた。今日ファミレスでも泣いたのに、この体の何処からこんなに水分が湧いてくるんだろう。身体中がぎりぎり軋む。あてなく彷徨う羊が居場所を探すように、何かに寄りかかりたくて、大きな枕をぎゅっと抱きしめた。
ボクなら、もっと巻島さんのこと大切にしてあげられるのに……。あの人のこと、絶対悲しませたりしないのに。

……ああ、そうか。そうなんだ。ボク、巻島さんのこと、好き。なんだ、きっと。いまやっと気づいちゃった。――遅いなぁ、ボクってば鈍感すぎるよ。
そうだよ。もしボクが巻島さんの恋人だったら。あなたのこと、すごく大切にするのに。ひどいことなんて絶対しないよ。泣かせたり、傷つけたりなんて絶対しないのに。

「(好きです……。好きです、すきです……まきしまさん……)」
喉がすっかり枯れてしまうまで、ボクは夜の暗がりの中でずっと泣き続けた。



――固く守られた種から芽が伸び、根が生えていく。
ボクの心に根を下ろす。気づいた時には根が行きわたり、もうほどけないのだ。

あれからいくつかの季節が巡り、ボク、小野田坂道は今年3年生になり、先日ようやく18歳の誕生日を迎えた。
はじめての恋心に気づいた運命のあの日から、1年以上の月日が流れた。あれからボクはもうずっと巻島さんと会ってない。彼はこんどこそ本当にレース中の落車に巻き込まれて(あの日の巻ちゃんはまったく運が悪かったんだ、と東堂さんは自分のことのようにひどく悔やんでいた)膝を故障し、しばらくリハビリを重ね、お互いレース会場で顔を合わせることも無いまま、最後のインターハイを終えたボクは受験生になり部活とロードレースを引退した。
最近のボクは、あれだけ好きなアキバに行く機会も減らしてもっぱら受験勉強に専念している。巻島さんのいる東都大学が第一志望だ。模試では今のところD判定だけど、絶対何とかしてやるんだ。……いつか、あなたに追いつきたい。抱いた恋心は叶わないとしても、せめて側にいてまた一緒に走りたいと願う。

……あともうひとつ。
ボクが巻島さんとファミレスで会ってからしばらく後、巻島さんと例の年上の彼氏が別れたという事を人づてに聞いた。あの時のボクの言葉が波紋になって巻島さんに届いたのかどうかは分からない、けれど。
それなら。ボクだって少しは望みを持っていてもいいですよね……と思いながら、受験という名のレースの中で、ボクは今日もひたすらノートにペンを走らせつづけている。

【END】
2012/06/30 七篠