フォトグラフ

※大学生坂道×巻島。R-15


 ―――――雨が降るとだいたい、いつも寝起きが悪くなるんだ。
夜半からの雨はまだ、しとしと降り続いている。昨夜の甘い疲れがまだ残っているから今日のような朝練が無くなる雨の日は助かるけれど。
寝ぼけ眼で目をこすり、軽く背伸びをした所でメール着信を表す赤い点滅に気がついて、ダブルベッドの中からサイドテーブルに手を伸ばし坂道は眼鏡と自分のケータイを掴む。
3通ほど溜まっていた未確認メールのうちの一通は彼のよく知る友人からのものだった。添付されている画像ファイルを開くと、赤い髪をした派手めな青年と、美人というより「可愛い」という言葉が似合う感じの女性が一緒にピースをして写っていた。
興味深く写真を眺めていると、隣でまだ寝ていたはずの恋人の手が気づかないうちにそっと伸びてきて坂道はケータイを取り上げられた。

「人のケータイ勝手に見るのって、一寸どうかと思いますけど……」
坂道は隣にいる恋人に怪訝な視線を送った。
「いや、お前がなんか楽しそうな顔で見てたから気になったっショ。……えっこれ鳴子?」
さすがに何年も会っていないと確信が持てないのか、巻島は確認を取ってきた。
「鳴子くんは昔と顔つきが変わりましたよね、イケメンになって。頭赤いのはそのままですけど」
鳴子は出身地関西の大学に通っている。自転車競技は続けているので、坂道は年に数回大会で会っていて、高校時代から引き続きメールのやりとりを続けていた。
「あの鳴子も随分大きくなったもんだなァ。で、隣のこの女は誰よ?」
「『ワイ、彼女が出来たんや!カワイイやろー。羨ましい?へへ。小野田くんも彼女出来たら一緒の写真送ってな!』……だって。」

 巻島さんと一緒にいる写真を送ったら鳴子くんもビックリしちゃいますよねー。と坂道は応え、自分のケータイを悪戯な手から難なく取り返す。カメラを恋人の居る方に向け、決定ボタンを押す素振りを見せたので焦った巻島は眉をひそめるとレンズの方に向けて大きく手のひらをかざした。
「さすがに、今撮るのはヤメろっショ……。」

裸だからなァ。冗談ですよ、趣味悪すぎです、撮りませんよ。坂道はケータイを閉じ、サイドテーブルにカタンと戻した。

「今撮るのはダメ。ってことは、写真を送るのはいいんですか?」
「別にダメって言えねーっショ……」
巻島は背を向けて寝ているのでどんな表情をしているのか坂道からは見えない。
「ダメっていう権利とかねーし。坂道の好きにすればイイショ」

高校の時からずっと先輩のこと好きでした。という坂道が巻島を追いかけ、必死で勉強して同じ大学に合格し、それから様々な紆余曲折を経てようやく付き合うことになった。二人がいま交際している事は特に隠している訳ではないのだが、巻島にはあまりオープンにする気がないらしく(彼曰く「説明するのメンドーだし、混乱する奴もいるっショ。それに、誰が誰と付きあおうと自由だしなァ」だそうだ)大学の友人知人及び自転車部員の中でもごく一部の人間しか知らない秘密事項になっていた。

「じゃあ、好きにしますよ?」
坂道はケータイを見るために掛けていた眼鏡を外すと、後ろからそっと愛おしい恋人の身体を抱きしめ、わざと低い声を出して耳元で囁く。普段は長い髪で隠れて見えない後ろの首筋をさらけ出して舐め、強く吸い、赤い跡を付けた。自分と比べて低めの体温を持つ白い肌が赤く染まっていくのを見るのが愉しい、と思いながら愛撫を続ける。
「ちょ、そういう意味の『好き』じゃなく、て……ダメっ、ショ……」
坂道の甘い手から逃げようと巻島は身をひねり、向かい合った。先ほどの行為で感じてしまっているのか、瞳がすこし潤んでいる。
「が、学校!遅刻するっショ……」
彼は先輩らしく後輩の勉学のことを心配しているようだ。
「ボク今日3限からなんで、まだ全然時間ありますから。巻島さんは?」
「……オレは4限だけ。」
「じゃぁお互い大丈夫ですよね。好きにします。ふふ」
坂道はそう言って子どものように邪念のない感じの笑みを浮かべ、今度は優しく恋人の頬に触れた。


 ……坂道も大きくなったっショ。
愛の行為を終え、満足した表情でふたたび惰眠を貪る恋人の顔をベッドでぼんやり眺めながら巻島は思う。
初めて出会った時の坂道はまだ未熟で、顔つきも幼かったのにあれから随分背丈が伸び、気が付いたら自分と同じくらいの目線になっていた。童顔だった少年の頃の面影を若干残してはいるが、健やかな青年に成長した坂道。大会で何度も優勝した結果周りから注目を浴び、校内ではちょっとした有名人だ。あれだけ欲しがっていた友達も増え、時々女性から告白を受けていることも知っている。
共に走った者たちを次々と虜にしていく坂道の、果てしない疾走はきっと皆の期待に応えるだろう。一方、大学に入ってから故障などに悩まされた巻島は己の能力が終わりを迎えつつあることをひしひしと感じていた。

「オレはいつまでお前の『大好きな先輩』でいられるのかねェ……」
厳しい顔でひとり呟く。
……まぁ、今は未だ考えなくてもいいか。一回だけ溜息を付くと、巻島ももう一度目を閉じた。



【END】

2012.01.20 七篠

<あとがき>(白黒反転)
大学生坂道×巻島さん。です。未来の話なので色々捏造入ってます。
導入部だけで具体的なえろしーんは(ほぼ)ないのでR-15くらいでオネガイシマス……

大学生坂道くんは自信がついて今よりはちょっと強気なカンジになっているかなーという感じで。
「様々な紆余曲折」のあたりはいつか書きたいですが何時になるやら

</あとがき>