パラレルSS「
スレンダーな彼女」の続きです。
【注意】
※巻島さんが女子です。坂道くんとお付き合いしています。
※巻島さんのライバルも女子です。(お察し下さい)
◇◆◇
「それで……が、すっごく……なんですよ!そこが面白くって!」
「ふぅん、それは楽しそうネ。今度見せてくれる?」
「はいっ、是非!今度DVD持って行くので、一緒に見ましょう、巻島さん!」
ボクと巻島さんは今夜も電話で楽しく話していた。毎日会ってるけど、だって話が止まらないんだから仕方ないよね。
毎晩彼女と電話してる事を、ロードの大会で仲良くなった御堂筋くんに話したら「リア充め……爆発すればエエんや」って言われたけど、ボクは全然気にしないよっ。
ボク、総北高校1年生の小野田坂道は自転車部のウェルカムレースをきっかけにミステリアスな雰囲気を纏う学校一の美女、3年生の巻島裕子さんと知り合って、恋人同士のお付き合いをすることになった。校内では『信じられない凸凹カップルの誕生だ!』とか話題になったけど、ボクはそのうち誰にも恥じることなく巻島さんに釣り合うような彼氏になってやるんだ!……という気持ちで毎日頑張っている。深く知り合う前には憂い表情の多い人だなと思っていた巻島さんだけど、恋人のボクに対しては笑ってくれたり、手を振ってくれたり、実は結構抜けたところなんかもあって可愛い人だなぁーってことがよく判った。付き合いだしてから4ヶ月、ま、まだ深い関係にはなってないんだけど……。そ、そのうちこっちも頑張るよ!
話は戻って。電話回線の向こうにボクはまた話しかける。
「ところで。巻島さんは自転車、楽しいですか?」
「ウン、すっごく楽しいヨ。坂道と知り合ったのも良かったケド、ロードも同じくらい楽しいから、始めてホントーに良かったって思ってるんショ」
ボクと付き合いだしてから『サカミチに悪い虫がつかないように、いつも一緒に居たいっショ』と付き合い半分でロードを始めた巻島さんだけど、実は凄く才能があって、ここ数ヶ月で特にヒルクライムレースでは向かう所ほぼ敵がいないくらい強くなった。正直、彼女は平凡なボクなんかよりすごくて内心ちょっと嫉妬しちゃうレベルなんだよねー。
「でね、ヒルクライムレースも楽しいんだケド、ちょっと悩みもあって……」
「えっ、どうしたんですか?悩みがあるならボクに相談して下さい。もしすぐに解決しなくても、一緒に考えれば何か良い方法が浮かぶかもしれませんし」
ボクは必死で電話の向こう側に提案した。
「そぉ?……あっ、ママンが呼んでるみたいだから、また明日ネ、坂道。オヤスミナサイ」
一方的に電話が切れ、鈴を転がすような可愛い声は味気のないツーツーという電子音に変わってしまった。
「巻島さんの悩み」ってなんだろう……気になるなぁ。けど、また明日学校で会った時に改めて聞けばいいよね。朝の自主練で早く起きるためにボクはさっさと布団の中にもぐった。zzz……
◇◆◇
そして翌日。
まだ空気が薄い感じのする朝早い時間。朝練のために学校に向かうボクが通学路の途中にある大きな藪の横を走っていた時、藪の中からガサゴソ何かが動く音がした。
また猫かな……?この辺はなぜか野良猫がすごく多くて、ボクも撥ねそうになったことがあるからこの道沿いは注意して走らなくちゃいけない。徐行気味にスピードを落としながら走ると、ガサゴソガサゴソと緑の繁みが大きく動き、中からバリバリゴキッと小枝が折れる音と一緒に猫にしては大きすぎる黒い塊がヌウッと顔を出した。
「うわあぁぁ!」
な、なにっ???幽霊に驚く子どもみたいにボクは悲鳴を上げてブレーキをかけたけど、その大きな塊は動物じゃなくて、人間の……綺麗な女の子だった。
「おい、そこのメガネくん!君はこのあたりの学生か?総北高校って、どっちに行けばいいか知ってる?」
「??? は、ハイっ……」
彼女の勢いに気圧されたボクは、有無をいわさず反射的に返事をしてしまった。
……ボクの目の前で体中に付いた葉っぱと小枝をパンパンと払い落とす黒い塊の正体は、制服姿の女の子だった。この辺では見たことのない制服だけど、高校生かな?しかも、とても見目麗しく、誰が見ても美少女だと認めるような女の子だ。儚げで憂いのある美人の巻島さんとはまた違うタイプで、気の強そうな正統派美人って感じ。肩のあたりで切りそろえた日本人形のような黒くしっとり艶のある髪に、色素が薄く透けていて吸い込まれそうなブラウン色の瞳。形のよいおでこに、髪をバックにまとめた白いカチューシャがまぶしい。……でも繁みから出てきたせいで、まだ頭と制服のあちこちに葉っぱがついてるけど。おてんばな娘なのかな?
「私は箱根から来たのだが、道の途中で地図を無くして迷ってしまったのだ……」
高飛車な喋り方をする彼女は、戦国時代の強気なお姫様みたい。もしくは、タカラヅカの男役とか?強いて言えば『ラブ☆ヒメ』のクサナギヒメに似てて、すごくツンデレっぽい感じ。クサナギヒメの方がもっと髪の毛が長いけど。
「ボク、そこの学生だから連れていってあげます。後ろに付いてきて下さい。あ、でも、ここから歩きじゃ学校まではちょっと遠いかなぁ……」
「おお、すまない。私も自転車で来ているからその心配は無用だ。今引っ張り出してくるから、ちょっと待っていてくれ」
カチューシャの似合う彼女(仮に「カチューシャさん」って心の中で呼んでおこう)は、悪戯っぽくニヤッと笑うと自分の自転車を繁みの裏からよいしょっと引っ張り出してきた。何とそれは、高価そうな白のフルカーボンロードバイクだった。石畳レースで有名なベルギーのブランドのものだ。
「ええっ、その格好で……箱根からロード乗ってきたんですか!?」
カチューシャさんの制服のスカートは短い。そのままロードに乗ったらぱんつが見えちゃうよ!
「おや、ロードを知ってるのか君は。奇遇だな。だが、ご心配なく……」
彼女は自分でそのスカートをチラリとめくった。えっ?
「うわっ!」
え、エッチすぎる!まさか、痴女さんなの??ヤだっ!ボクは見てはいけないモノからサッと目を背けた。
「なんだ、純情だなぁ。よく見ろメガネくん!」
指の間からそおっと覗くと、カチューシャさんはスカートの下に黒いレーサーパンツをちゃんと履いていた。なんだぁ……。安心したボクはホッと胸をなでおろした。
「ハハハ。残念かもしれんが、ラッキースケベは無しだぞ」
さぁさぁ、早く私を総北高校に連れて行っておくれ。またニヤッと笑ったカチューシャさんはボクのおしりをぺちんと叩いて急かした。
「ところで、あの。どうして藪の中にいたんですか?」
「あぁ、タイヤがパンクしてしまって裏手で修理していたのだ。そこに高校生らしい君が通りがかったから急いで道を聞いたというワケ。あの辺は人通りが少ないようだからこのまま迷って遭難するかと思ったぞ」
などと軽く話をしながらカチューシャさんを誘導しているうちにあっという間にボクたちは裏門坂を経由して総北高校の校門に到着した。
「巻島さん!おはよ〜」
「坂道、おはよ……ヒィッ」
登校中に起こった珍事のために、結局朝練出来ないまま辿り着いた校門前で巻島さんの姿を見つけたボクは彼女に挨拶をしたが、声をかけた瞬間。なぜだか巻島さんは急に怯えだして、ボクの体を盾にしてサッと素早く後ろに隠れた。
「……どうして こんなの 連れてきたの、サカミチ!」
巻島さんはボクの後ろでそう叫んだ。
「えっ、えっ、何。巻島さん、どうかしましたか???」
突然のドタバタに戸惑っている最中のボクの胴体を、カチューシャさんが凄い力でドカッと横に退け(ちょ、ちょっと、何??)、彼女は巻島さんのすぐ傍に近づいた。
「巻ちゃん、会いたかったぞ、巻ちゃーん! 私の巻ちゃんは制服姿もすごく似合っているなぁ、さすがだv」
今朝の夢に巻ちゃんが出てきたから、急に会いたくなって箱根から走ってきたのだ巻ちゃん!満面の笑みと一緒に、カチューシャさんは巻島さんをいきなりぎゅーっと強く抱きしめ、白い頬に向けて嬉しそうにスリスリと顔を寄せた……!
(えっ、な、何、何が起こってるの?????)
ボクはうろたえた。なんだかよく分からないけど、このカチューシャさんは、巻島さんの知り合いなの???でも巻島さんはすっごーく嫌そうな顔してるけど……。いつもより眉が困った角度にキュッとカーブを描いていた。
◇◆◇
「ワタシ、その娘ちょっと苦手なんショ……。でもまさか、総北まで来るとは思わなかったワ」
と、いうわけで。カチューシャさんは、やっぱり巻島さんの知り合いだったようだ。
「いやだなぁ、巻ちゃん。『その娘』なんて他人行儀だぞ。……私たちは運命の相手だろう!」
とりいそぎ誘導した自転車競技部の部室の中で。ボクと巻島さんを相手にそう言い張る彼女の名前は「東堂尽(つくし)」さん。3ヶ月前にヒルクライムレースの会場で巻島さんと知り合ったんだそうだ。
「箱学3年のヒルクライムクイーンこと私、東堂は『眠れる森のスリーピングビューティ、白雪姫』と呼ばれている。単独で圧倒的に強かった私はどのレースだって完璧に制していた。しかし、孤独であることに物足りなさを感じていたのも確かだった。――とはいえ、そんな退屈な毎日も3ヶ月前の大会のあの日で終わりを告げた。目の前に突然、強くて美しいライバルの巻ちゃんが颯爽と現れたから。あの独特の蜘蛛のようなスタイルで速く速く登る美しい姿に私は惚れてしまったのだよ、メガネくん。巻ちゃんの出現は私に雷に打たれたような衝撃を与えた。一目惚れというヤツだ。これは運命!なのだと私には判った……!」
と、東堂さんは自己紹介という名の長い演説をかました。ボクは片手を上げながら、恐る恐る尋ねる。
「えっ、でもー、巻島さんは女の子で、あなたも女の子……ですよね?」
「そうだ。だが、運命に男も女も関係ないだろう?メガネくん」
そして運命を感じた私はなりふり構わず直ぐに告白したのだが『ワタシ、いま付き合ってる相手がいるから……。ゴメンナサイ』と、いともあっさりフラれてしまってな。巻ちゃんをメロメロにするような憎いオトコの相手の顔が見たくて、総北まで来たというワケだ。
……と、東堂さんは遠征の理由をボクに話した。
「だが。巻ちゃんの彼氏はメガネくん、君だったのかー。なんだぁ。正直、三下っぽい君が巻ちゃんの彼氏とはなぁ……もっとこう、彫りの深いイケメンでー、背が高くてー、頭もキレる、そういう感じかと思っていたのに……」
ブーブー。当てが外れたらしい東堂さんは脱力してふてくされた顔で部室のパイプ椅子に脚をナナメに組んでどさっと腰を下ろした。明らかにがっかりした顔をしている。
(ううっ、三下だなんて。合ってるかもしれないけど、ひどいよ……)
「三下なんて、ひどいっショ」
「そうです、そうです」
巻島さんの言葉にボクは被さった。
「確かに目立たないちびっこかもしれないケド、坂道は凄くカッコイイんだから!」
(え、ええーっ……?)
巻島さんは頭から湯気を出す勢いで東堂さんに対して猛烈にプンプン怒ってるけど、その発言から(彼女から見てもやっぱりボクは目立たないちびっ子なんだ……)ということが判ってしまって、はしごを外されたボクはショボーンと落ち込んだ。カッコイイって言われるのは嬉しい。でも、悲しいよ〜。
(あ、ゴメンナサイ……)
うつむいたボクに巻島さんは気が付いたらしく謝られてしまった。
「ごめんネ……坂道。でも、私の中ではいつもサイコーに目立ってるし、素敵だよ。大好きっショ」
「巻島さん……。ぐす、優しいなぁ。ボクも、好き……」
優しい言葉をかけあったボクたちはいつものようにギュッと抱きしめあった。巻島さんからはいつも花のようないい香りがするから、ボクは頭がボーッとしちゃう。
「ちょ、ちょっと君たち!この私の前でイチャイチャを見せつけるんじゃない!ヒドいではないか!!」
二人だけのラブラブワールドを築くボクたちの光景を見せつけられた東堂さんはイラァ……と苛立った。怒りで顔が赤くなり、頭にピョコンと立ったアホ毛がギュンギュンとタケコプターのようにグルグル回っている。
「巻ちゃん、巻ちゃん!そのような三下の者より、私のほうが遥かにカッコイイということをこれから証明してやる!」
あらぶる東堂さんはボクの方に向かってビシッと指をさして宣戦布告した。
「坂道くんと言ったな。この私と、近くの坂でヒルクライムレース勝負だ!私が勝ったら君には巻ちゃんとの交際を諦めてもらおう。そしてカッコイイ私と巻ちゃんはラブラブになるのだ〜!そうだ……フフフ……フフフフ……」
ヒルクライムクイーン東堂さんは自分の勝利を確信しているのか、ひとりでキャッキャウッフッフッと浮かれている。
(なんか勝手にレース組まれちゃった。強引な人だなぁ……。)
ボクは引いた。強引な人は苦手なんだよー。でも、挑まれたからには東堂さんに勝って、巻島さんをボクのものにするしかないっ!
◇◆◇
「うむ、この坂。レースをするのに良い場所だな」
東堂さんは道端の雑草を軽くむしって風に撒くと、ケータイを取り出していじり始めた。
「東堂、何してるんショ?」
「ヒルクライムでの男女タイム差を計算しているところだ。レースなのだから、なるべく平等に行きたい。5km単位で、男子がX分、女子がY分か……。ふむ。済まないが、私はやはり女子だから男子の君には少しハンディを付けてもらうぞ」
2分先にスタートを切った東堂さんの後に続いて、ボクがスタートすることになった。今泉くんと戦って以来の裏門坂レース再びだ。……今度はボクが追う方だけど。
ヘルメットをかぶってスタートライン前でスタンバイしているボクの耳元に巻島さんが口を寄せる。
「あんなこと言ってたケド、東堂は男顔負けに強いから油断しちゃダメヨ。あの子、箱学の男子達より速いって噂もあるから。……でもワタシの坂道ならきっと勝てるよネ」
頑張って。帰ってきたらいいものあげるっショ。と巻島さんはボクの横で呟いた。
「はい、ボク、がんばります!」
秒針がゼロに合った瞬間、ボクは弾丸のようにスタートラインを飛び出した。
(いいもの、って何だろう?分かんない)
走りながらボクは自問自答する。まぁいいや、今のボクにはとにかく東堂さんに勝つことがすべてだ!
坂の中間地点のあたりでボクはすぐに東堂さんの背中を見つけてピタッと張り付いた。彼女は今朝、総北まで来る途中に一度走っただけでこの坂についてはほとんど知らないはずなのに、迷いやブレで一切乱れることのない東堂さんのペダリングは水をかく白鳥、氷上を滑るフィギュアスケーターのように無駄なく綺麗で、しかも、ロケットのように素早かった。
(ハンディが付いてるっていっても女の子相手だから勝てるよね)
と思っていたボクは心の底で東堂さんのことを舐めていたのかもしれない。予想以上の彼女のスピードにボクはうろたえた。
(でもっ。ここで負けたら巻島さんを奪われちゃう!)
ボクの闘志にボッ!と火が点いた。
「来たなメガネくん!だが、今のところは私の勝ちだ!このまま、ゴールまで飛び込む!」
東堂さんはますますケイデンスを上げた。
草レースだし、ハンディ付きだから、ボクはここで東堂さんに負けたって決して恥じゃない……。だけど、ここで勝たなきゃ、うだつのあがらない自分のことを「好き」と言って信頼してくれる巻島さんのことをボクは裏切ることになってしまう。
(――それに、巻島さんはボクのものだ!誰にも取られたくないっ!)
大好きな巻島さんを守るため、ボクはギアを一段上げて、必死になって脚が千切れるほど踏んだ。心臓のポンプが痛くて痛くて、腿から下の感覚が無くなる……。けど、ここで心臓が破れて、脚が千切れてもボクには踏むしか道が残されていないんだ!!
(巻島さん、巻島さん、好きです、……大好きだよ!)
ボクは心の中でそう呟き、奥歯をぎゅっと噛みしめてケイデンスをあげた。
光と風がボクと東堂さんの間を駆け抜け、片方の車輪がゴールのラインを乗り越えた。一瞬、音が聞こえなくなり、すべての時間が止まる。身体の限界をオーバーして見る太陽が、ひどく眩しかった。
◇◆◇
必死でゴールまで駆け抜けたボクと東堂さんは、カチャ、ガチャとビンディングを外してバイクから離れると、クローバーが茂る道端の草むらにそれぞれゴロンと横たわった。
「サカミチ……!」
後を追って自分のロードで登ってきた巻島さんが倒れているボクの側に駆け寄ってきた。でも、起き上がる体力も気力ももう残ってないや……。
「えへへ……。ボク勝ちましたよー、巻島さん」
ボクは残った力で親指をビシっと上げた。
「良かった……坂道。ワタシ、絶対勝つって信じてたっショ。だって坂道はワタシのこといつも守ってくれるものネ」
だから、不安は無かったんだヨ。巻島さんはボクの体を優しく抱き起こして、額にチュッと唇を付けた。勝者へのキス。いいもの、ってこれの事だったんだ。えへへ。嬉しい。えへへ。えへへ。
「車輪が半分遅れてしまった。うーん、イケると思ったのだがな……。あれだけ踏んだのに、私の完敗だ。強いな、メガネくん。さすが巻ちゃんの選んだ男子だけある。仕方ない、君たちの仲を認めよう。お幸せにな。うっうっ」
天を仰ぎながら、気丈な東堂さんは半べそをかきながら負けを認めた。噛みしめた唇に皺が寄っている。
(ていうか、ボクたちってこの人からいちいち認められなきゃいけないワケ?でもまぁ、勝ったからいいか……)
「ゴメンネ、東堂。でも、ワタシ、坂道のことが大切なの。他の誰とも代えられないの」
ボクに寄り添い、片手を優しく握りながら巻島さんは東堂さんにそう言った。
「いや、私の負けだから素直に認めなくてはならんよ。ならんのだ」
でも……。せっかくここまで来たのだからせめてお土産をいただいて帰るとしよう。と言った東堂さんは巻島さんの顔を両手でホールドすると、
チュッ
「えっ」
「!」
いきなりその頬にキスした。
「ちょ、ちょっと何するっショ東堂……!このおバカっ!」
怒った巻島さんは東堂さんの広い額めがけてビシっとデコピンをした。
「痛ッ!イタいなぁ巻ちゃん、アハハ、ハハハ。わざわざ遠征してきたのだから、この位の褒美は良いだろう?釣りはいらんぞ」
メガネくんとお幸せにな!巻ちゃん!赤い跡がついた額を押さえる東堂さんはどこかさっぱりとした嬉しそうな顔をしている。
(と、東堂さんって一体……。)
この人の唐突な行動にはさっきから驚かされてばかりだ。
(でも。巻島さんと東堂さん。このふたりの「美少女どうしの百合カップル」もなかなかいい眺めかもしれないなぁ。ウフフ……。ハッ、ダメだよっ。ボクったら一体何を考えてるんだよ!?)
「もぉ、ちょっとォ。坂道ったら、何ニヤニヤしてるの?人がヒドい目に遭ってるのに……!」
東堂さんからの突然のキスに照れてるのか怒ってるのか顔を赤くしながら、巻島さんはあきれたようにボクを問い詰めてきた。
「い、いや、なんでもないんです!ボク、東堂さんに勝てたのが嬉しくって……」
えへへ。ボクは後頭部を掻きながら、萌えた心を隠すために笑ってゴマかした。……ごめんなさい、巻島さん!
朝からおかしな事件に巻き込まれて、それで、突然挑まれたレースに勝って……。ムチャクチャだけど、今、なんだかすごく楽しいんだ。世界一可愛い自分の彼女と、変わり者だけど憎めない美女に囲まれたボクは、勝利の美酒に酔う王様のように幸せな気分になった。
【おしまい】
2013/04/26 七篠
【あとがき】
前回の「スレンダーな彼女」が思ったより好評なようで嬉しい七篠です。(ありがとうございますー!)
巻ちゃんが女子だったらやっぱりライバルも女子だよねー。ということで東堂くんも女体化にしました。武家のお姫様風ということで。
(以前好きだった某ゲームのキャラに似てるので、書いていて特に楽しかったです。ノリノリw)
続き(いつになるやら)では、坂道くんと巻島さんがステップアップするお話にしたいですねー。
感想などいただけるとたいへん有難いですv