「条件反射」
【注意】
R-18
坂道くんが巻島さんに片思いでソロプレイ。
フェチっぽい描写があります。
*
「ただいまー」
……と夕方に自宅の玄関で言っても誰も答えない。けどついいつもの習慣、反射的に坂道は声をかけてしまう。この時間は母親はまだパートに行っている。だからいつも2時間くらいは家で独りなのだ。
狭い廊下を抜けて、階段の上にある自分の部屋に行く前に、1階の浴室の横にある洗濯機のカゴに汚れたジャージや靴下を次々と突っ込む。
「あれっ。何だろ、これ」
部活用の大きなビニールカバンの一番下に、覚えのないサイクリンググローブが入っていた。
他の洗い物は全てカゴに放り込んでしまったが、明らかに自分のものではないグローブだけを坂道は自室に持ち帰った。とりあえず椅子に座り、グローブを机の上に置く。
「……巻島さんの、間違えて持って来ちゃったみたい」
割とシンプルな配色が多い自転車用のグローブだが、緑色と青色、ついでに黄色が入っているタイル状の模様なんて派手なデザインの物は彼のものに違いない。そういえばこんな感じのものをはめていたのを見た記憶がある。
真夏用のこの指切りグローブは薄く、少し伸びる素材で出来ている。後で手洗いして巻島さんに返せばいいよね。うん。坂道はグローブを手にして、サイズを測ろうと自分の右手にそれをはめてみた。顔の前でぐいっ、とおもいきり指を広げる。
「うーん、やっぱり、大きいなぁ」
背の高い巻島の大きなサイズのグローブは、坂道には少し緩く、手に余る。彼の長い手。長い指をいつも羨ましく感じてその造形に見惚れることもあった。
坂道はグローブを外そうとして、止めた。緩いグローブを弄るシズル感が脳裏に何かを思い起こさせた。
*
右手を鼻元に近づけ、グローブの匂いを嗅ぐ。巻島さんの汗と身体のにおいがする。大人のひとのにおい。……あの手で触られたい。ボクのものとは違う、あの長い指に触ってみたい。触られたい。あの切れ長の細い目で見られたい。じっと見つめられたい。と願う。
――アニメや漫画の二次元では可愛い女の子が好きだ。今でも。……でも、現実のボクは気がつくといつも巻島さんのことを目で追っている。毎日のように。
(同性の先輩に、こんな変な欲望を持つなんて絶対よくないよ……)
怯えて動けない子猫のように坂道は眉を寄せて目をギュッと閉じ、震えた。既に坂道の夜の慰めの対象は巻島になっていた。それでも今ならまだ引き返せる、はず。……でも、「これ」を使ってしまえば最後、もう絶対に引き返せない感じがした。
それでも……青い情熱は我慢が出来ない。
椅子から中腰で立ち上がり性急にベルトを外し、ズボンと下着を一緒に下ろすと欲望の度を現す坂道のそれはもうすっかり硬く大きくなっていた。サイズの合わないグローブをはめながら、ベッドの中で毎晩しているようにぎゅっ、と握る。
(なんか、自分の手だけど自分の手じゃないみたいだ……)
先走りの滴がぬるぬる溢れ、グローブが欲望で汚れていく。同時に滑りがよくなって分身の嵩がいっそう増していった。
(……巻島さんの手で)
もっと触って、触られたい。好きなようにしてほしい。ボクを……
「あっ、あっ……ひゃ、あぁ……なんか、いつもより、熱いよぉ……なに、これ……っ……」
膨れた先端の割れ目から、細くなるくびれの部分、太い幹、慎ましやかな袋の部分まで。坂道はいつもより激しく自分の欲望を愛撫した。普段と比べて異常に興奮しているのが自分でも分かる。はぁ、はぁと荒くなる呼吸がますます欲望を煽った。
「ぼく……もっと触って、ほしい……です、っ……まきしま、さん、まきしま、さぁん……」
虚ろな目で何度も好きな人の名前を呼びながら、坂道は頂点に達した。
満足した後の虚脱感を経て徐々に正気に戻ると、自分のやらかしたことを自覚して坂道の顔が真っ赤になった。
「あー、汚しちゃったぁ……。グローブ、ドロドロにしちゃったよ……」
手のひら部分が黒いグローブは、坂道の吐き出した白濁に塗れてグチャグチャになっている。これを洗ってきれいにして返すとしても、己の欲望を抱いて放ってしまった事実はもう消えない。……グチャグチャになったのはグローブだけじゃなくて、ボクの心の中身もだ。申し訳ない気持ちとどうしようもない胸の内を抱えながら、椅子に座ったまま坂道はひとりで静かに涙を流した。
しかし、一旦火がついた若い身体の欲はまた燃え上がる。
もう一度独りで無為な行為を繰り返すために、坂道は汚れたグローブに再び手を伸ばした。
*
「何ショォ?これ。オレのじゃねぇよなァ……」
巻島は自宅の大きな洗濯乾燥機の前で、ひとつだけサイズの合わない靴下を自分のカバンから拾い上げた。これといって特徴のない白い靴下。どこかで見たことある気もするが。
「ちいせぇ足……坂道のかな?そういえば今日、オレの隣で着替えてたしなァ」
とりあえず巻島は自分の部屋にその靴下を持ち帰った。
【Fin】
2012/05/23 七篠+香葉しい
あとがき:
とある方のお話にインスパイアされて書きました。若干エグい話ですみません;
この後、巻島さんがどうしたのかは知りません……。w
*(グローブの描写はちょっと嘘っぽいデス。手のひらにパッドが入ってますよねホントは)*