「甘い罠」おまけ
(本編の後日談的な感じで。お口直しに……)
「担々麺って家でも作れるんだナ……」
自宅のダイニングのテーブルで熱々の麺をすすりながら巻島は感心した。坂道お手製の担々麺は、さすがに専門店にはかなわないが、家で食べる分には上出来な味だ。
「ネットで色んなレシピが載ってるので参考になるんです。結構簡単に作れるんですよ、麺はインスタントですし」
「でも、料理って最初にある程度基本を覚えないとダメらしいっショ。なんで坂道は色々作れるの?」
器量の良くないあなたは家事くらい出来なきゃ将来困るわよ、という母親の言いつけで、坂道は一通りの家事が出来るように育てられたのだという。それに、これからは男の子も家のこと出来るようにならなきゃダメね。そう言ったという彼女を、巻島自身は数回しか会ったことがないが賢い母親だと感じる。
(料理についてはアニメ『クッキングプリンセス まりんちゃん!』で覚えたってのが大きいけど……)お前はなんでもアニメがきっかけなんだナァ、ってまた呆れられちゃうかも……?と坂道は思い、そこまで言及するのは今回は自重した。
ロードレースのDVDを見るために泊まりに行ってきまーす。という口実で坂道はこの土日の間巻島のマンションに来ている。半分は合っているが、半分は恋人同士のスイートな夜を楽しむためというのが大きい。さすがに両親には内緒だった。
まだ昼間なのに二人は軽いアルコールを入れながら、リビングのソファに移動して先日参加したレースを撮影したムービーを再生した。傾斜のきついコースが液晶の大画面に映し出される。
「……巻島さんのダンシングってエロいですよね」
坂道の意外な発言に巻島は飲んでいたビールをブハッと噴いた。肌の上でプチプチとはじける泡がくすぐったくて気持ち悪い。急いでタオルを取ってきて、金色の苦い液体で濡れた服を拭った。缶チューハイが坂道におかしなことを言わせたのだろうか……。いつもは奥手な後輩の発言に巻島は驚きを禁じ得なかった。
「後ろで追走してると、たまに変な気持ちになることがあって。困っちゃいます」
坂道は巻島を背中の方からぎゅうと抱きしめた。
「……坂道は昼からしたいっショ?」
「巻島さんはこういうの、好きなんじゃないですか」
犬がじゃれつくように坂道は巻島の首筋に鼻をすりつけてきた。
「嫌いじゃねーけど……」
返事の代わりに可愛い恋人に軽いキスを与えて
「今日はいっぱい時間あるし、こういうのは夜になってから改めてじっくり愉しもうぜ?……たっぷりと、ナ」
巻島は目を細めて楽しそうに返した。
*
そういえばさっきから気になってたんですけど。どこか旅行でも行くんですか?坂道はソファの前のテーブルの上の薄いパンフレットを指さした。旅行会社の店頭で配っている冊子と高級そうなホテルのパンフレットが数冊重なっている。
「海の見える白いホテルを探してたんショ」
「海の見えるホテル……ですか?」
意味が分からないらしく坂道は首を傾げた。
「お前と一緒に行きたいなァと思って……。オレは女じゃねーし清楚でもねーし」
……初めてでもねーけど。それでもいいなら。と巻島は顔を赤らめた。そこまで聞いて坂道はようやく恋人の考えていることを理解した。
「う、嬉しいです。すっごく嬉しい!!」
しっぽがちぎれんばかりに坂道は喜ぶ。
「やっぱり巻島さんのこと好きです。えへ」
【おわり】
2012/04/17 七篠
(おまけなので短いです)
(巻島さんのダンシングってエロいですよね……)